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RAG のすべて ― 基礎から現在の形、そして難しさまで / 全15章

RAG 04:埋め込み ― 文章を「意味の地図」に置く

発行
アニメモ公式
版
第1版
改訂
コマ
全14

言葉が一致しなくても意味の近い資料を見つけるための「埋め込み」を、意味の地図のたとえで説明します。文章が数字の並びになる仕組み、コサイン類似度、次元の取り引き、モデルの選び方、資料と質問を同じモデルで埋め込む約束、質問用・資料用の札、そして否定や数字が苦手な理由まで。

「休みはいつ取れる?」で「有給休暇」を見つけたい

この章は、RAG の流れ(質問 → 探す → 集める → 読ませる → 答える)のうち、「探す」の土台になる技術、埋め込み(エンベディング)の話です。

社内チャットで「休みはいつ取れる?」と聞かれたとします。答えが載っているのは、「有給休暇は入社6か月後に10日付与され、取得には前日までの申請が必要」という資料です。

人間なら、この2つが同じ話だとすぐに分かります。でも、文字を比べると、ほとんど重なりません。質問は「休み」「いつ」「取れる」、資料は「有給休暇」「付与」「取得」。共通しているのは「休」の1文字くらいです。

言葉が一致するものを探す検索(キーワード検索)だと、いちばん大事なこの資料を取りこぼすかもしれません。逆に「休み」という字が入っているだけの、関係のない資料を拾ってくるかもしれません。

利用者は、資料に書かれている言葉を知りません。自分の言葉で聞いてきます。だから RAG の検索には、文字ではなく意味で比べる方法が要ります。それを可能にするのが埋め込みです。

※この本は 2026年9月時点の情報をもとにしています。モデルや製品の名前、数字は変わることがあります。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • 「休みはいつ取れる?」で「有給休暇」を見つけたい
  • 休みの取り方
  • 集めた資料
  • 質問
  • 検索
  • LLM
  • 答え
  • 資料庫
  • 質問の言葉:「休み」「いつ」「取れる」 資料の言葉:「有給休暇」「取得」「付与」
  • 文字の一致で探すと、いちばん大事な資料を取りこぼす
  • 言葉がほとんど重ならない。でも意味は同じ。この差を埋めるのが埋め込み。

埋め込み=文章を数字の並び(ベクトル)にすること

埋め込みとは、文章を数字の並びに変換することです。数字の並びのことをベクトルと呼びます。

変換を担当するのは、埋め込みモデルと呼ばれる専用の AI モデルです(モデルは、大量のデータから学習して作られた計算の仕組みのこと。LLM もモデルの一種です)。文章を渡すと、たとえば 1024 個の数字が返ってきます。

この数字の1つ1つに、人間が読める意味はありません。「3番目の数字は休暇っぽさ」のような決まりは無いのです。大事なのは、並び全体です。

埋め込みモデルは、大量の文章の組(「この質問にはこの文章が答えている」「この2つの文は同じ意味」など)で訓練(=学習)されています。その結果、意味の近い文章からは、似た数字の並びが出るようになっています。

図では「有給休暇の日数」と「休みはいつ取れる?」を埋め込んでいます。文字はほとんど違うのに、出てきた数字の並びはよく似ています(数字は説明のための例です)。

数字になってしまえば、コンピュータは「どれくらい似ているか」を計算で測れます。文章を読んで理解する代わりに、数字の近さで意味の近さを測る。これが埋め込みの考え方です。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • 埋め込み=文章を数字の並び(ベクトル)にすること
  • 有給休暇の日数
  • [ 0.12, -0.83, 0.40,
  • 0.07, … , -0.25 ]
  • 埋め込みモデル
  • 休みはいつ取れる?
  • [ 0.10, -0.79, 0.44,
  • 0.02, … , -0.31 ]
  • 数字は説明のための例
  • 意味の近い文章は、数字の並びも似る。だから数字どうしで「近さ」を測れる。

たとえるなら「意味の地図」の上の座標

数字の並びは、地図の上の座標だと考えると分かりやすくなります。

数字が2つなら、紙の上の横と縦の位置、つまり2次元の座標です。数字が3つなら、部屋の中の位置のような3次元です。座標に使う数字の個数を次元と呼びます。埋め込みの数字は数百〜数千個あるので、本当は数百〜数千次元の座標ですが、想像するときは2次元の地図で十分です。

社内の資料を全部埋め込んで、この地図に点として置いてみます。すると、面白いことが起きます。

「有給休暇の日数」「休暇の申請方法」「夏季休暇の案内」は、左上に寄り集まります。「交通費の精算」「経費の締め日」は右上に、「VPN の接続」「パスワード再設定」は下に集まります。

誰かが「これは休暇の資料」と分類したわけではありません。埋め込みモデルが、文章の意味だけから、似たものを近くに置いたのです。

この地図には、次のような性質があります。言い換え(「休み」と「休暇」)は近くに置かれます。モデルによっては、言語が違っても同じ意味なら近くに置けます(英語の資料に日本語で質問できる)。そして、辞書や分類を人が作る必要がありません。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 3 / 14
  • たとえるなら「意味の地図」の上の座標
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 近い意味 = 近い場所
  • 有給休暇の日数
  • 交通費の精算
  • 休暇・経費・社内 IT で塊ができる
  • 休暇の申請方法
  • 経費の締め日
  • 言い換えても近くに置かれる
  • 夏季休暇の案内
  • 言語が違っても近くに置ける
  • 分類や辞書を人が作らなくてよい
  • VPN の接続
  • パスワード再設定
  • 似た話題の資料は、地図の上で自然に寄り集まる。誰も分類していないのに。

質問も同じ地図に置き、いちばん近い資料を拾う

検索のときは、質問も同じように埋め込んで、同じ地図に置きます。

図の赤い点が「休みはいつ取れる?」です。休暇の塊のすぐそばに落ちました。この点から近い順に資料を並べれば、それが検索結果になります。

順位資料近さ(例)
1休暇の申請方法0.86
2有給休暇の日数0.84
3夏季休暇の案内0.77
…交通費の精算0.31

「休み」という文字が資料に無くても、意味が近ければ上位に来ます。これが「意味で探す」検索で、ベクトル検索や意味検索(セマンティック検索)と呼ばれます。

ここで、仕事を2つに分けて考えると整理しやすくなります。

埋め込み(この章)は、文章を地図の座標にする仕事です。ベクトル検索(第5章)は、何百万もの点の中から、質問の点に近い点を速く見つける仕事です。この章では、まず地図づくりのほうを見ていきます。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • 質問も同じ地図に置き、いちばん近い資料を拾う
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 1. 休暇の申請方法
  • 近さ 0.86
  • 有給休暇の日数
  • 交通費の精算
  • 2. 有給休暇の日数
  • 近さ 0.84
  • 休暇の申請方法
  • 経費の締め日
  • 3. 夏季休暇の案内
  • 近さ 0.77
  • 夏季休暇の案内
  • … 交通費の精算
  • 近さ 0.31
  • 休みはいつ取れる?
  • 近さの数字は説明のための例
  • VPN の接続
  • パスワード再設定
  • 質問の点のまわりにある資料が、関係の深い資料。これが「意味で探す」。

近さの測り方:矢印の「向き」がどれだけそろっているか

「近い」をどう測るのでしょうか。いちばんよく使われるのがコサイン類似度です。

名前は難しそうですが、考え方は単純です。地図の原点(すべての数字が0の、基準の点。図の左下の黒い点)から、それぞれの点に向かって矢印を引きます。そして、2本の矢印の向きがどれだけそろっているかを比べます。

2本の矢印コサイン類似度意味
ほぼ同じ向き1 に近い意味がとても近い
直角0 くらい関係が薄い
逆向き−1 に近い反対(実際にはあまり出ない)

図では、「有給休暇の日数」と「休みはいつ取れる?」の矢印はほぼ同じ向きで、「交通費の精算」は大きく違う向きです。

なぜ「距離」ではなく「向き」なのでしょうか。矢印の長さには、文章の長さなどの、意味とは別の要素が混ざりやすいからです。向きだけを見れば、長い資料と短い質問でも公平に比べられます。

実務の小ネタを1つ。多くの埋め込みモデルは、矢印の長さを 1 にそろえて(正規化して)返します。長さが 1 なら、コサイン類似度は、2つの並びの同じ位置の数どうしを掛けて全部足しただけの値(内積)と同じになり、計算が速くなります。データベースの設定で「コサイン」と「内積」を選ぶ場面があるのは、このためです(第5章)。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 5 / 14
  • 近さの測り方:矢印の「向き」がどれだけそろっているか
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 向きがほぼ同じ
  • 有給休暇の日数
  • 約1(とても近い)
  • 直角
  • 約0(関係が薄い)
  • 休みはいつ取れる?
  • 逆向き
  • 約−1
  • 長さ(文章の長さなど)は無視して、向きだけを比べる。多くのモデルは長さ1にそろえて出すので、内積(同じ位置の数を掛けて足した値)でも同じ結果になる
  • 交通費の精算
  • 同じ向きなら 1、直角なら 0、逆向きなら −1。これがコサイン類似度。

数字の数(次元)は、細かさと重さの取り引き

埋め込みの数字の個数を次元と呼びます。モデルによって、数百〜数千までさまざまです。

次元が多いほど、細かい意味の違いを持てます。その代わり、重くなります。

次元が少ない次元が多い
意味の細かさ細かい違いは潰れやすい細かい違いまで持てる
保存の大きさ小さい大きい(1つあたり数KB〜)
検索の速さ速い遅い・メモリを食う

たとえば、1つの数字を 4 バイト(よく使われる小数の保存形式の大きさ)で保存すると、1024 次元のベクトルは 1 つで約 4KB です。チャンクが100万個あれば、ベクトルだけで約 4GB になります。次元を半分にすれば、保存も計算もおよそ半分です。

最近は、あとから次元を短く切っても使えるように訓練されたモデルがあります。この訓練方法は Matryoshka Representation Learning(マトリョーシカ表現学習、2022年の論文)と呼ばれ、入れ子人形のように、前のほうの数字だけでも大まかな意味を表せるようにしています。API に「何次元で返すか」を指定できるモデルもあります。

選び方の目安は、まずモデルの標準の次元で試し、保存量や速さが問題になってから短くすることです。短くしたら、精度がどれだけ落ちたかを必ず測ります(第12章)。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 6 / 14
  • 数字の数(次元)は、細かさと重さの取り引き
  • 256 次元
  • 1024 次元
  • 3072 次元
  • 次元が少ない
  • 速い・保存が小さい・細かい違いは潰れやすい
  • 次元が多い
  • 細かい意味を持てる・メモリと計算が増える
  • 次元が多いほど細かい意味を持てるが、保存も検索も重くなる。

埋め込みモデルは大きく3種類

埋め込みモデルには、大きく3つの選び方があります。

種類特徴向いている場面
API で使う汎用モデル提供会社の API(プログラムから呼び出す窓口)に文章を送るとベクトルが返る。多言語に強いものが多いまず試したい。サーバーを持ちたくない
公開モデル(多言語)中身が公開されていて、自分のサーバーや手元の GPU(AI の計算を速くする部品)で動かせる資料を外に出せない。量が多く API 代がかさむ
日本語に特化したモデル日本語で訓練。小さくても日本語で強いものがある日本語の資料が中心

どれがいいかを比べるには、公開されたベンチマーク(比較の試験)が参考になります。多言語では MTEB(Massive Text Embedding Benchmark、「大規模な文章埋め込みの試験」)、日本語では JMTEB(その日本語版)がよく使われます。モデルの名前と順位はすぐに入れ替わるので、この本では特定のモデルを勧めません。

ただし、ベンチマークの順位はあなたの資料での順位ではありません。社内の略語、業界の言い回し、表や箇条書きの多い資料…で、結果は変わります。

おすすめの決め方は、候補を2〜3個に絞り、自分の資料と、実際に来そうな質問 30〜50 個で試すことです。「正しい資料が上位5件に入ったか」を数えるだけでも、差ははっきり出ます(測り方は第12章)。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 7 / 14
  • 埋め込みモデルは大きく3種類
  • API で使う汎用モデル
  • 公開モデル(多言語)
  • 日本語に特化したモデル
  • 送るだけ。多言語に強いものが多い
  • 自分のサーバーで動かせる
  • 小さくても日本語で強いものがある
  • 比べる表
  • MTEB(多言語)・JMTEB(日本語)などの公開ベンチマーク
  • 最後の決め手
  • 自分の資料と、実際の質問 30〜50 個で試す(第12章)
  • 候補を2〜3個に絞り、自分の資料と質問で試してから決める。

資料と質問は、必ず同じモデルで埋め込む

埋め込みでいちばん大事な約束は、「資料と質問は、同じモデルで埋め込む」です。

モデルが違えば、地図そのものが違います。モデル A の地図で「休暇」の塊が左上にあっても、モデル B の地図では右下にあるかもしれません。数字の並びの意味が、モデルごとにまったく違うからです。

図は、資料をモデル A で、質問をモデル B で埋め込んだ場合です。質問の点が、関係のない社内 IT の塊のそばに落ちてしまいました。次元の数がたまたま同じなら、エラーは出ません。ただ、変な検索結果が返るだけです。だから気づきにくいのです。

この約束から、実務上の注意が2つ出てきます。

1つ目。モデルを替えたら、資料を全部埋め込み直す必要があります。新しいモデルのほうが良さそうでも、切り替えは「全資料の再計算」とセットです。資料が多いと時間もお金もかかるので、最初のモデル選びは慎重に。

2つ目。どのベクトルをどのモデルの、どの版で作ったかを、データベースに一緒に記録しておきます。API のモデルは版が上がることがあり、同じ名前でも中身が変わる場合に備えるためです。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • 資料と質問は、必ず同じモデルで埋め込む
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 有給休暇の日数
  • 交通費の精算
  • 資料:モデル A で埋め込み
  • 休暇の申請方法
  • 経費の締め日
  • 質問:モデル B で埋め込み
  • 夏季休暇の案内
  • 休みはいつ取れる?
  • 質問の点が、関係のない場所に落ちる。エラーは出ないので気づきにくい
  • VPN の接続
  • パスワード再設定
  • モデルが違えば地図が違う。別の地図の座標を比べても意味がない。

質問と資料で「札」を付け分けるモデルもある

モデルによっては、質問と資料に別々の札(プレフィックス=文の先頭に付ける決まった文字)を付けて埋め込むよう決められています。

たとえば E5 系のモデル(Microsoft が公開した、広く使われる埋め込みモデルの系統)は、質問の先頭に query: 、資料の先頭に passage: を付ける約束です。API で使うモデルでも、「これは検索の質問」「これは検索される文書」のように用途を指定する引数を持つものがあります。

なぜ分けるのでしょうか。「質問」と「その答えが載っている資料」は、実は似た文章どうしではありません。質問は短く、「?」で終わり、答えそのものは含みません。資料は長く、説明が書いてあります。

「似ている文章を探す」のと「質問に答えている文章を探す」のは、少し違う仕事です。札で役割を伝えると、モデルは後者のほうに合わせて座標を作ってくれます。こうした、質問側と資料側で扱いを変える作りを非対称と呼びます。

注意点は、札を付け忘れてもエラーにならないことです。ただ黙って精度が落ちます。新しいモデルを使うときは、まず説明書(モデルカード)を読み、札や用途の指定が要るかどうかを確かめてください。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 9 / 14
  • 質問と資料で「札」を付け分けるモデルもある
  • query: 休みはいつ取れる?
  • なぜ分けるのか
  • 質問は短く、資料は長い。形が違う
  • passage: 有給休暇は入社6か月後に
  • 10日付与され、…
  • 質問と「それに答える資料」は、似た文章どうしとは違う関係。札で役割を伝えると、答えを含む資料のほうへ寄せてくれる
  • 例:E5系のモデルの約束
  • 質問には query: 、資料には passage: を付ける
  • 説明書どおりの札を付けないと、黙って精度が落ちる。まずモデルの説明を読む。

コードで見る:埋め込んで、近い順に並べる

ここまでを、TypeScript の短いコードにすると図のようになります。embed() は、使う埋め込みモデル(API やライブラリ)を呼んで、文章ごとにベクトルを返す関数だとします。図のコードは上から、①資料に passage: を付けてまとめて埋め込む、②質問に query: を付けて埋め込む、③cos で近さを計算する(長さ1にそろったベクトルなので、同じ位置の数を掛けて足す内積で足りる)、④全チャンクに近さを付けて大きい順に並べ、上位5件を取る、という順に動きます。

流れは2段に分かれています。

段階いつやること
前準備(索引づくり)資料が増えたとき・変わったときチャンクを埋め込んで保存する
検索質問が来るたび質問を埋め込み、近い順に並べる

資料の埋め込みは、前もって1回だけです。質問が来るたびに全資料を埋め込み直すわけではありません。質問が来たときに計算するのは、質問1つ分の埋め込みと、近さの比較だけです。

コードでは、全部のチャンクと1つずつ近さを比べています。これは資料が数千件くらいまでなら十分に速い方法です。でも、100万件になると遅すぎます。そこで、比べる相手を賢く減らす仕組み(ベクトルデータベースと近似最近傍探索)が要ります。それが次の第5章です。

"passage: " と "query: " は前のページの札なので、使うモデルが札を必要としないなら付けません。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • コードで見る:埋め込んで、近い順に並べる
  • // 資料(チャンク)は前もって埋め込んで保存しておく(第3章・第5章)
  • const docVecs = await embed(chunks.map((c) => "passage: " + c.text));
  • // 質問は、来るたびに同じモデルで埋め込む
  • const [q] = await embed(["query: " + question]);
  • const cos = (a, b) => a.reduce((s, x, i) => s + x * b[i], 0); // 長さ1なら内積
  • const top = chunks.map((c, i) => ({ c, score: cos(q, docVecs[i]) }))
  • .sort((a, b) => b.score - a.score).slice(0, 5);
  • ① 資料に passage: を付けて埋め込む ② 質問に query: を付けて埋め込む
  • ③ cos で近さを計算(長さ1なので、同じ位置の数を掛けて足すだけ) ④ 近い順に上位5件を取る
  • 資料は前もって1回だけ埋め込んで保存。質問は来るたびに埋め込む。

埋め込みが苦手なこと:否定・数字・珍しい固有名詞

埋め込みは「だいたいの意味」をつかむのが得意です。裏返すと、一字違いで意味が大きく変わるものは苦手です。

苦手なこと例なぜ
否定「返品できます」と「返品できません」話題(返品)が同じなので、ほぼ同じ場所に置かれる
数字・番号「第12条」と「第21条」、「2025年度」と「2026年度」数字の違いは、意味の違いとしては小さく扱われる
珍しい固有名詞型番「XR-4012」、社内の略語、新製品名モデルが訓練で見たことがない
専門用語の細かい違い業界ごとに意味の違う同じ言葉一般的な文章で訓練されている

図の左では、「返品できます」と「返品できません」がほぼ重なっています。質問が「返品できますか?」なら、両方とも上位に来ます。どちらが正しいかを見分けるのは、検索の後の段階(第7章の並べ直しや、第8章の生成)の仕事になります。

型番やエラーコードのように「文字が完全に一致すること」が大事な場面では、昔ながらのキーワード検索のほうが強いこともよくあります。そのため、実務では両方を組み合わせるのが定番です(第6章)。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
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  • 埋め込みが苦手なこと:否定・数字・珍しい固有名詞
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 否定(できる/できない)
  • 返品できます
  • 数字・日付・条番号の違い
  • 返品できません
  • 型番・社内の略語・新しい固有名詞
  • 第12条
  • 業界の専門用語の細かい違い
  • 第21条
  • 補い方:キーワード検索との組み合わせ(第6章)、並べ直し(第7章)
  • 意味が逆でも、話題が同じなのでほぼ同じ場所に置かれる
  • 「だいたいの意味」は得意。「一字違いで意味が逆」は苦手。

よくある落とし穴

埋め込みまわりで、実際によく起きる失敗をまとめます。

落とし穴何が起きるか対策
モデルを替えて古いベクトルと混ぜる検索結果がでたらめになる。エラーは出ないベクトルにモデル名と版を記録。替えたら全部作り直す
長すぎるチャンクモデルには読める長さの上限があり、超えた分は黙って切り捨てられることが多い上限を調べ、チャンクをそれより短くする(第3章)
札の付け忘れ精度が黙って落ちるモデルカードを読む
英語の比較表だけで選ぶ日本語の資料で期待ほど効かない自分の資料で試す
しきい値の使い回し「0.8以上なら関係あり」のような境目の値(しきい値)は、モデルごとに違うモデルごとに実際の値を見て決める

特に最後の点は見落とされがちです。コサイン類似度の値の分布(値がどのあたりに集まって出るか)はモデルによって大きく違います。あるモデルでは無関係な文章どうしでも 0.7 くらい出ることがあり、別のモデルでは関係の深い文章でも 0.5 くらいのことがあります。「絶対値」より「順位」を信じるのが安全です。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 12 / 14
  • よくある落とし穴
  • モデルを替えたのに、古いベクトルと混ぜて検索している
  • 上限より長いチャンクの後ろが切り捨てられ、そこが検索に効かない
  • 質問用・資料用の札(query: / passage:)を付け忘れる
  • 英語の比較表だけで選び、日本語の資料で試していない
  • 近さの数字(0.8 など)を、モデルが違うのに同じ境目(しきい値)で使う
  • モデルを替えたら全部埋め込み直し。長すぎる文章は後ろが黙って切られる。

他の章とのつながり

埋め込みは、RAG の「探す」部分の土台です。前後の章と、次のようにつながっています。

第3章(チャンク分割):埋め込むのは、チャンクです。1つのチャンクに話題が2つ混ざっていると、その点は2つの塊の間に落ち、どちらの質問にも近くなりません。「1つのチャンクに1つの話題」は、埋め込みのための約束でもあります。

第5章(ベクトル検索):この章で作った地図の上で、何百万もの点から近い点を速く探す方法です。

第6章(ハイブリッド検索):埋め込みが苦手な型番・番号・固有名詞を、キーワード検索で補います。

第7章(リランキング):埋め込みで拾った候補を、質問と資料を一緒に読むモデルで並べ直します。否定の見分けのような細かい判断は、ここで効いてきます。

第12章(評価):モデル選びや次元の変更が本当に良かったのかを、数字で確かめます。

チャンクの切り方が埋め込みの質を決め、埋め込みの質が検索の上限を決めます。後ろの章でどれだけ工夫しても、地図がずれていたら取り戻せないことを覚えておいてください。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 13 / 14
  • 他の章とのつながり
  • 03 チャンク分割
  • 04 埋め込み
  • 05 ベクトル検索
  • 06 ハイブリッド
  • 07 リランキング
  • 第3章:1つのチャンクに1つの話題。混ざると点が塊の間に落ちる
  • 第5章:何百万の点から、近い点を速く探す方法
  • 第6・7章:埋め込みの苦手(否定・数字・固有名詞)を補う方法
  • チャンクの切り方が埋め込みの質を決め、埋め込みの質が検索の上限を決める。

まとめ:埋め込みは「意味で探す」ための地図づくり

この章で見たことをまとめます。

項目内容
埋め込み文章を数字の並び(ベクトル)にする。意味の近い文章は似た並びになる
たとえ意味の地図の上の座標。似た話題は寄り集まる
近さコサイン類似度(矢印の向きのそろい方)。長さ1なら内積と同じ
次元多いほど細かいが重い。短く切れるモデルもある
モデル選び公開ベンチマークで候補を絞り、自分の資料で試す
約束資料と質問は同じモデルで。札が要るモデルもある
苦手否定・数字・珍しい固有名詞・専門用語

埋め込みのおかげで、利用者は資料に書かれた言葉を知らなくても、自分の言葉で質問できるようになります。ただし、埋め込みは万能ではありません。否定や番号のような細かい違いは、第6章のキーワード検索や第7章の並べ直しと組み合わせて補うのが実務の定番です。

次の第5章では、この地図の上で、何百万の点の中から近い点を速く見つける方法、ベクトル検索を見ていきます。

  • RAG のすべて 04 ― 埋め込み
  • 14 / 14
  • まとめ:埋め込みは「意味で探す」ための地図づくり
  • 意味の地図(本当は数百〜数千次元)
  • 埋め込み
  • 文章 → 数字の並び
  • 有給休暇の日数
  • 交通費の精算
  • 近さ
  • コサイン類似度(向き)
  • 休暇の申請方法
  • 経費の締め日
  • 次元
  • 細かさと重さの取り引き
  • 夏季休暇の案内
  • 約束
  • 資料と質問は同じモデル
  • 休みはいつ取れる?
  • 苦手
  • 否定・数字・固有名詞
  • VPN の接続
  • パスワード再設定
  • 次章では、この地図の上で、何百万の点から近い点を速く探す方法を見る。

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