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RAG のすべて ― 基礎から現在の形、そして難しさまで / 全15章

RAG 11:エージェント型 RAG ― 探し方そのものを LLM に任せる

発行
アニメモ公式
版
第1版
改訂
コマ
全14

「1回探して1回答える」一本道の RAG から、LLM が自分で何を・どこで・何回探すかを決めるエージェント型 RAG へ。多段の質問、考える → 探す → 読むの繰り返し、道具の定義、結果を確かめて探し直す工夫(Self-RAG・CRAG)、調べ物エージェント、MCP による道具の差し込み、そして遅さ・料金・予測しにくさと、一本道で足りる場面まで。

これまでの RAG は「1回探して、1回答える」一本道

ここまでの章で見てきた RAG は、どれも同じ形をしていました。質問が来たら、必ず1回探し、見つかった資料を並べて、LLM に1回読ませて答えさせる。第9章の書き直しや第10章の索引の工夫も、この一本道の途中を強くするものでした。

この一本道の流れは、プログラムを書いた人が決めた固定の順番です。LLM の出番は最後の「読んで答える」だけで、何を探すか、探し直すかどうかには口を出せません。

一本道には、大きな良さがあります。

良さ理由
速い探すのも LLM を呼ぶのも1回ずつ
安い1問あたりの料金がほぼ一定
読みやすい毎回同じ動きなので、失敗の原因を追いやすい

でも、次のページで見るように、一本道ではどうしても答えられない質問があります。この章では、「何を・どこで・何回探すか」を LLM 自身に決めさせる形、エージェント型 RAG を見ていきます。RAG の流れでいうと、「探す → 集める → 読ませる」の部分を、LLM が自分で何度も回す形です。

※2026年9月時点の情報です。製品やモデルの名前、機能、数字は変わることがあります。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • これまでの RAG は「1回探して、1回答える」一本道
  • 質問
  • 集めた資料
  • 資料A
  • 質問
  • 検索
  • 資料B
  • LLM
  • 答え
  • 資料C
  • 資料庫
  • 質問が来たら必ず1回探し、見つかったものを読ませて答える。探し直しはしない
  • この章は、この一本道を「LLM が自分で道を選ぶ」形に変える話
  • 流れは人が決めた固定の順番。LLM は最後に「読んで答える」だけだった。

1回探しただけでは答えられない質問がある

「先月いちばん問い合わせの多かった製品の、保証期間は?」という質問を考えます。

答えるには、2つのことを順に調べる必要があります。

順番調べることどこを見るか
①先月、問い合わせが最も多かった製品はどれか問い合わせのデータベース
②その製品の保証期間は何年か製品マニュアル

ポイントは、②の問いに入る製品名(製品X)は、①の答えを読むまで分からないことです。元の質問のまま1回探しても、「保証期間」について書かれた、いろいろな製品のマニュアルが並ぶだけです。どの製品のものを読めばよいのか、LLM には判断できません。

このように、ある答えを手がかりに次を調べる必要がある質問を、多段の質問(マルチホップの質問)と呼びます(第9章)。

第9章の「分解」は、最初に質問を小さな問いに分けました。でも、この例では①の答えが出るまで②の問いが作れないので、最初に一度分解するだけでは足りません。探した結果を読んでから、次の問いを考える必要があります。そのためには、LLM が流れの途中に何度も口を出せる形にしなければなりません。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 1回探しただけでは答えられない質問がある
  • 先月いちばん問い合わせの多かった製品の、保証期間は?
  • ① 先月の最多の製品は?
  • ② 製品Xの保証期間は?
  • 問い合わせ DB を調べる → 製品X
  • 製品マニュアルを探す → 2年
  • ②の問いに「製品X」が入るのは、①の答えを読んだ後
  • 元の質問のまま1回探すと、どの製品の資料を探せばよいか分からない
  • 2つ目に何を探すかは、1つ目の答えを読むまで分からない。一本道では届かない。

一言でいうと:LLM に「探す道具」を渡し、使い方を任せる

エージェント型 RAG の考え方は、一言でいうと「検索を、LLM が自分で呼べる道具にする」ことです。

いまの主な LLM の API(プログラムから LLM を呼び出すための窓口)には、道具の使用(tool use、function calling とも呼ばれます。「ツール呼び出し」とも)という機能があります。アプリの側で「こんな道具があります」と LLM に教えておくと、LLM は答えの途中で「この道具を、この引数(道具に渡す入力。検索なら検索する言葉)で呼びたい」と言えるようになります。アプリがその道具を実行し、結果を LLM に返すと、LLM はそれを読んで続きを考えます。料理人(LLM)が「冷蔵庫から卵を2個取って」と頼み、助手(アプリ)が取ってきて渡す、という分担に似ています。

図では、LLM の周りに4つの道具があります。

道具中身
社内規程の検索第2〜7章で作った RAG の検索そのもの
製品マニュアルの検索別の索引に対する検索
問い合わせ DB件数の集計などができるデータベース(DB)
Web 検索社外の最新情報

一本道の RAG では、人が「必ず社内規程を1回探す」と決めていました。エージェント型では、どの道具を、どんな言葉で、何回使うかを LLM が決めます。探さずに答えてよい質問では、1回も探しません。第9章の「振り分け」や「探すかどうか」の判断も、LLM が道具を選ぶ形で自然に行われます。

「エージェント」という言葉は、ここでは「目的のために、自分で次の行動を選んで動く LLM」くらいの意味で使っています。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 一言でいうと:LLM に「探す道具」を渡し、使い方を任せる
  • 質問
  • 社内規程の検索
  • 問い合わせ DB
  • LLM(エージェント)
  • 製品マニュアルの検索
  • Web 検索
  • 答え
  • 何を・どこで・何回探すかを LLM が決める。検索は LLM が呼べる道具の1つになる。

考える → 探す → 読む → 足りなければもう一度

エージェントの動きは、図の輪で表せます。

段階やること
考える今わかっていることと、次に何を調べるべきかを考える
探す道具を選んで呼ぶ(検索・データベース・Web など)
読む道具が返した結果を読む
足りる?答えるのに十分か判断する。足りなければ「考える」に戻る

足りると判断したら、輪を抜けて答えます。

この「考える」と「行動する」を交互に繰り返す形は、2022年の論文 ReAct(Reasoning と Acting を組み合わせた名前)で広く知られるようになりました。論文では、LLM が Wikipedia を検索しながら、考え・行動・結果を交互に書いて問題を解く様子が示されています。

大事なのは、輪を何周するかが質問によって変わることです。簡単な質問なら1周で終わり、難しい質問なら何周もします。一本道の RAG は、いわば「必ず1周だけする輪」でした。エージェント型は、周回の数を LLM に任せた形です。

最近の LLM は、この輪を回すことを想定して訓練されていて、道具を何度も呼びながら問題を解くのが上手になっています。ただし、任せるということは、止まらない・同じことを繰り返すという危険も生まれます。その対策は後半で見ます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 考える → 探す → 読む → 足りなければもう一度
  • 考える
  • いいえ
  • 考えと行動を交互に
  • 足りる?
  • (ReAct・2022年の論文)
  • 探す
  • はい
  • 読む
  • 答える
  • 結果を読んでから次の一手を決める。この繰り返しがエージェントの正体。

実際の動き:2回探して、答えにたどり着く

図は、多段の質問「先月いちばん問い合わせの多かった製品の、保証期間は?」を、エージェントが解いたときの記録(ログ)の例です。

周考え行動結果
1まず最多の製品を調べる問い合わせ DB を集計製品X が最多
2次に製品Xの保証を調べるマニュアルを「製品X 保証期間」で検索保証は購入日から2年
3答えるのに十分答える

2周目の検索の言葉「製品X 保証期間」に注目してください。これは、1周目の結果を読んだから作れた問いです。一本道の RAG には、この動きはできません。

コードにすると、骨組みは次のようになります(llm.chat と runTool は説明用の仮の関数です)。

ts
const messages = [{ role: "user", content: question }];
for (let step = 0; step < 6; step++) {          // 上限を必ず決める
  const res = await llm.chat({ messages, tools });
  if (res.toolCalls.length === 0) return res.text; // 道具を呼ばない=答え
  messages.push(res.message);
  for (const call of res.toolCalls) {
    messages.push({ role: "tool", id: call.id, content: await runTool(call) });
  }
}
return "調べきれませんでした。わかった範囲では…";
行やっていること
1行目会話の記録(messages)を、利用者の質問から始める
2行目最大6周まで繰り返す
3行目会話の記録と道具の一覧を LLM に渡す
4行目LLM が道具を呼ばなければ、その文章を答えとして返す
5〜8行目呼びたいと言われた道具をアプリが実行し、結果を会話の記録に足して次の周へ
最後6周で終わらなければ、分かった範囲で返す

LLM が道具を呼ばなくなったら、それが答えです。ループの回数に上限があることも大事です。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 実際の動き:2回探して、答えにたどり着く
  • 考え:まず先月の問い合わせが多い製品を調べる
  • 行動:問い合わせDB.集計(期間 = 2026-08)
  • 結果:製品X 412件、製品Y 230件 …
  • 考え:次に製品Xの保証期間を調べる
  • 行動:マニュアル検索("製品X 保証期間")
  • 結果:[3] 製品X 取扱説明書 p.12「保証期間は購入日から2年」
  • 答え:先月の最多は製品Xで、保証期間は購入日から2年です [3]
  • 1周目:DB
  • 2周目:マニュアル
  • 3周目:答える
  • 周回の数は LLM が決める
  • 1回目の結果(製品X)を読んで、2回目の問いを作っている。一本道にはできない動き。

道具は「名前・説明・引数」で LLM に教える

LLM に道具を教えるときは、多くの API で共通して、次の3つを渡します。

項目中身
名前search_manual のような、道具の名前
説明何のための道具か、いつ使うべきかを文章で
引数の形LLM が埋める入力の形(JSON のスキーマ=「query は文字列」のような入力の決まりを、決まった書式で書いたもの)

図の左は、この3つを書いた例です。query(検索する言葉)は必ず埋める入力、product(製品名)は ? が付いていて省略できる入力です。

LLM は、説明文を読んでどの道具を使うかを決めます。だから、説明文の書き方がとても大事です。「検索する」とだけ書かれた道具が3つあれば、LLM はどれを使えばよいか分かりません。「製品の取扱説明書を検索する。仕様・保証・故障時の対応に使う。社内規程はここには無い」のように、何が入っていて、何が入っていないかまで書くと、選び間違いが減ります。

もう1つ大事なのは、道具を実行するのはアプリの側だということです。LLM は「この引数で呼びたい」と言うだけで、実際に検索したりデータベースを読んだりするのは、あなたのプログラムです。

これは安全の面で重要です。アプリの側で、「この利用者が見てよい資料だけを探す」「データベースは読むだけ」といった制限をかけられるからです。LLM が引数に何を書いてきても、権限の確認はアプリが行います(第13章)。

道具の数は、多ければよいわけではありません。似た道具が増えるほど選び間違いが増えます。まずは少なく、はっきり違う道具から始めます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 道具は「名前・説明・引数」で LLM に教える
  • {
  • name・description(名前と説明)
  • "name": "search_manual",
  • 何に使う道具かを文章で
  • "description": "製品の取扱説明書を
  • 検索する。仕様・保証・故障時の対応に使う",
  • "input_schema": {
  • input_schema(入力の形)
  • "query": "string", "product": "string?"
  • LLM が埋める引数の形
  • }
  • }
  • 実行するのはアプリ側
  • LLM は「呼びたい」と言うだけ
  • LLM は説明文を読んで道具を選ぶ。説明が曖昧だと、選び間違える。

探した結果を、自分で確かめてから使う

一本道の RAG は、見つかった資料が的外れでも、それを読んで答えるしかありませんでした。エージェント型なら、読んだ結果を確かめて、だめなら探し直すことができます。

図の輪では、「足りる?」の段階を「確かめる」に強くしています。確かめるのは、主に次の2つです。

確かめることだめなとき
拾った資料は、質問に関係があるか言葉を変えて探し直す。別の資料庫を探す
答えるのに十分か足りない部分を、もう一度探す

この考え方を研究として形にしたものに、Self-RAG(2023年)と CRAG(Corrective RAG、2024年)があります。

Self-RAG は、「そもそも探す必要があるか」「拾った資料は関係あるか」「自分の答えは資料に支えられているか」を、LLM 自身が特別な印(反省トークン。トークンは第1章で見た、LLM が読み書きする文字のかけら)を出して判定するように訓練する方法です。書きながら自分で赤ペンを入れる書き手のようなものです。CRAG は、拾った資料の良し悪しを判定する小さな専用のモデルを検索の後ろに置き、判定が悪ければ Web 検索などで補う、という方法です。こちらは、書き手の横に資料の目利き役を付ける形です。

どちらも論文の名前ですが、考え方は実務でもそのまま使えます。「拾った資料が質問に関係あるかを LLM に判定させ、関係なければ探し直す」という一段を足すだけでも、的外れな答えを減らせます。代わりに、LLM の呼び出しが増えるので、遅く高くなります。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 探した結果を、自分で確かめてから使う
  • 考える
  • いいえ
  • 関係ある? 足りる?
  • 確かめる
  • だめなら言葉を変えて探し直す
  • 探す
  • それでもだめなら別の場所を探す
  • はい
  • 読む
  • 答える
  • 拾った資料が関係あるか・足りるかを判定し、だめなら探し直す。Self-RAG・CRAG など。

調べ物エージェント:数十回探して、報告書を書く

エージェントの輪を大きく回すと、調べ物そのものを任せられるようになります。2024年の末から2025年にかけて、Google の Gemini や OpenAI の ChatGPT などに、「Deep Research(ディープリサーチ)」と呼ばれる機能が登場しました。

動きは、おおむね図の3段です。

段やること
① 計画質問を、調べるべき観点に分ける
② 探して読む観点ごとに何度も検索し、ページや資料を読み、足りなければさらに探す
③ 報告書集めた内容を、出典つきの長い文章にまとめる

1つの質問に数分から数十分かけ、数十回の検索をすることもあります。人が何時間もかけていた調べ物を、短い時間で下書きにしてくれるのが強みです。

RAG の目で見ると、これは「探す → 読むを大量に繰り返す RAG」です。社内の資料を探せる道具を渡せば、社内向けの調べ物エージェントも作れます。

ただし、使いどころは選びます。「有給は何日?」のような社内のよくある質問に、数分待たせるわけにはいきません。市場調査、技術の比較、論点の洗い出しのような、待ってでも深く調べたい仕事に向いています。

また、出典が付いていても、その出典が本当にその内容を言っているかは別の問題です(第8章)。報告書が長いほど、人が確かめる手間も増えます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 調べ物エージェント:数十回探して、報告書を書く
  • ① 計画
  • ③ 報告書
  • 調べる観点を分ける
  • 出典つきでまとめる
  • ② 何度も探して読む
  • 向いている
  • 市場調査・技術の比較・論点の洗い出し
  • 向かない
  • すぐ答えがほしい社内の質問(待てない)
  • 例
  • 2024年末〜2025年に各社の AI アプリに登場
  • 計画を立て、たくさん探して読み、出典つきの長い報告にまとめる。数分〜数十分かかる。

MCP:探す道具を、共通の口で差し込む

エージェントに渡す道具は、社内 Wiki の検索、チケット管理、データベース、ファイル共有…と、どんどん増えていきます。これをアプリごとに作り直すのは大変です。

そこで登場したのが MCP(Model Context Protocol。直訳すると「モデルに文脈を渡すための通信の約束事」)です。2024年11月に Anthropic が公開した、LLM のアプリと、外部の道具やデータをつなぐための共通の決まりです。その後、OpenAI をはじめ多くの会社やツールが対応しました。

役割中身
MCP ホストLLM を使うアプリ(チャットアプリ、開発ツールなど)
MCP サーバー道具やデータを提供する側(社内 Wiki の検索、データベースなど)

図では、前のページと同じ位置の道具の箱が、「MCP サーバー」に変わりました。道具を MCP サーバーとして一度作っておけば、MCP に対応したどのアプリからでも、同じ道具を使えます。コンセントの形が決まっていれば、どの家電もさせるのと似ています。

RAG の目で見ると、MCP は「探す道具を差し込む口」です。第2〜10章で作った検索の仕組みを MCP サーバーとして公開すれば、エージェントがそれを道具として使えるようになります。

注意点もあります。MCP サーバーは、LLM に資料や命令を渡す入口でもあります。信頼できないサーバーをつなぐと、資料に紛れ込んだ命令(第13章)の入口が増えます。どのサーバーをつなぐか、何の権限を渡すかは、慎重に決めます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • MCP:探す道具を、共通の口で差し込む
  • 質問
  • MCP サーバー 社内 Wiki
  • MCP サーバー データベース
  • LLM(エージェント)
  • MCP サーバー チケット管理
  • アプリ(MCP ホスト)
  • MCP サーバー ファイル共有
  • 答え
  • 道具をアプリごとに作り直さない。MCP サーバーとして作れば、対応するアプリから使える。

限界とトレードオフ:賢くなるが、遅く・高く・読めなくなる

エージェント型 RAG は強力ですが、代償もはっきりしています。

観点一本道の RAGエージェント型 RAG
速さ速い(1回ずつ)遅い(何周もする。数秒〜数分)
料金ほぼ一定周回の数しだいでぶれる
予測しやすさ毎回同じ動き同じ質問でも、探す順番や回数が変わりうる
失敗の調べやすさ追いやすいどの一手が悪かったか追いにくい
答えられる質問1回探せば済むもの多段の質問、探し直しが要るもの、複数の資料庫をまたぐもの

特に見落としやすいのは、「予測しやすさ」と「調べやすさ」です。一本道なら、答えが間違っていたとき、「検索が外れた」か「読み違えた」かを調べればよいだけでした。エージェントでは、「最初の道具の選び方が悪かった」「3周目の検索の言葉がずれた」「十分と判断するのが早すぎた」など、失敗の場所が増えます。

また、評価(第12章)も難しくなります。最後の答えだけでなく、途中の動き(どの道具を何回呼んだか)も見ないと、なぜ良くなったのか、悪くなったのかが分かりません。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 限界とトレードオフ:賢くなるが、遅く・高く・読めなくなる
  • 速さ
  • LLM の呼び出しと検索が何回も続く。数秒〜数分
  • 料金
  • 回数が読めないので、1問あたりの料金もぶれる
  • 予測
  • 同じ質問でも、探す順番や回数が毎回変わりうる
  • 調べにくさ
  • 間違えたとき、どの一手が悪かったか追いにくい
  • 強み
  • 多段の質問・探し直し・複数の資料庫をまたぐ質問
  • 一本道は速く安く、毎回同じ動き。エージェントは強いが、何回探すか事前に分からない。

一本道の RAG で足りる場面のほうが多い

エージェント型は新しく、話題になりやすい形です。でも、実際の社内の質問の多くは、1回探せば答えられるものです。

一本道で十分な場面エージェントが向く場面
規程や手順を1か所引けば済む答えまで何段もたどる
すぐに答えを返したい資料庫・データベース・Web をまたぐ
料金を一定にしたい待ってでも深く調べたい
動きを毎回そろえたい(監査など)探し直しが必要なことが多い

おすすめの進め方は、次のとおりです。

まず一本道の RAG で作り、実際の質問で動かします。そして、うまく答えられなかった質問を集めて分類します(第12章)。その中に「多段の質問」や「複数の資料庫をまたぐ質問」が多いと分かったら、そこで初めてエージェント型にします。

間を取る方法もあります。普段は一本道で答え、「確かめる」段で資料が足りないと判断したときだけ、エージェントとして探し直す、という形です。よくある質問は速く安く、難しい質問だけ時間をかける、という使い分けができます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • 一本道の RAG で足りる場面のほうが多い
  • 一本道の RAG で十分
  • エージェントが向く
  • 規程や手順を1か所引けば済む
  • 答えまで何段もたどる
  • すぐ答えを返したい
  • 資料庫・DB・Web をまたぐ
  • 料金を一定にしたい
  • 待ってでも深く調べたい
  • まず一本道で作り、答えられない質問の種類が見えてから、エージェントにする。

作るときの手綱:上限・権限・記録

エージェントに探し方を任せるなら、手綱を付けておく必要があります。

手綱理由
回数・時間・料金の上限見つからない質問で延々と探し続けるのを防ぐ。超えたら、今ある資料で答えるか「調べきれなかった」と返す
利用者本人の権限で動かすエージェントが、利用者の見てはいけない資料を探して答えに混ぜないように
書き込み・送信には人の確認探すだけでなく、メール送信やデータの更新ができる道具を渡すなら、実行前に人が確認する
すべての一手を記録考え・行動・結果を残し、失敗したときに追えるようにする
資料の中の命令に従わない取ってきたページや資料に「〜しなさい」と書いてあっても、それは命令ではない

最後の点は、エージェント型で特に重要です。一本道の RAG では、資料に紛れ込んだ命令の影響は、答えの文章が変になるくらいで済むことが多いです。ところがエージェントは道具を使えるので、命令に従って別の道具を呼ぶ、つまり「行動」してしまう危険があります。資料や入力に命令を紛れ込ませて LLM を操ろうとする攻撃をプロンプトインジェクション(指示の注入)と呼びます。第13章で詳しく扱うこの攻撃が、エージェントでより深刻になるのはこのためです。

権限の確認は LLM に任せず、道具を実行するアプリの側で必ず行います。

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  • 作るときの手綱:上限・権限・記録
  • 探す回数・時間・料金に上限を決め、超えたら今ある資料で答える
  • 道具は利用者本人の権限で動かす。見てはいけない資料を探させない
  • 書き込む・送る道具は、人の確認を挟む
  • 考え・行動・結果を全部ログに残し、後から追えるようにする
  • 取ってきた資料の中の命令文には従わない(第13章)
  • 回数と時間に上限を。道具は読むだけの権限に。すべての一手を記録する。

よくある落とし穴

エージェント型 RAG で、よく起きる失敗をまとめます。

落とし穴何が起きるか対策
上限が無い見つからない質問で延々と探し続け、料金がかさむ回数・時間の上限
同じ検索の繰り返し同じ言葉で何度も探し、同じ結果を読み続ける探した言葉を覚えさせる。繰り返しを検知して止める
道具の選び間違い説明が似ていて、違う資料庫ばかり探す説明文に「何が入っていて、何が無いか」を書く
何でもエージェント一本道で足りる質問まで遅く高くなる難しい質問だけに使う
資料の中の命令Web のページに書かれた命令に従って行動する命令には従わない。権限はアプリ側で絞る
記録が無い間違えたとき、どこで間違えたか分からない全部の一手をログに残す

どの失敗も、記録を見れば気づけるものです。エージェントを作ったら、最初のうちは、ログを人が読む時間を必ず取りましょう。「この種類の質問では、いつも同じ道具を3回呼んでいる」といった癖が、すぐに見えてきます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
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  • よくある落とし穴
  • 上限が無く、見つからない質問で延々と探し続ける
  • 同じ言葉で何度も探し、同じ結果を読み続ける
  • 道具の説明が似ていて、違う資料庫ばかり探す
  • 一本道で足りる質問まで、毎回エージェントで遅くする
  • Web の資料に書かれた命令に従ってしまう(第13章)
  • 止まらない・同じ検索を繰り返す・道具を選び間違える。上限と記録で気づけるようにする。

まとめ:探し方そのものを LLM に任せる

この章で見たことをまとめます。

項目要点
何が違うか何を・どこで・何回探すかを、人ではなく LLM が決める
なぜ要るか多段の質問は、1つ目の答えを読むまで次の問いが作れない
仕組み検索を道具にし、考える → 探す → 読む → 足りる? を繰り返す(ReAct)
道具の定義名前・説明・引数。説明文で選び方が決まる。実行と権限はアプリ側
確かめる拾った資料を判定し、だめなら探し直す(Self-RAG・CRAG の考え方)
調べ物エージェント数十回探して、出典つきの報告書を書く。待てる仕事向き
MCP探す道具を、共通の口で差し込む決まり
代償遅く、高く、予測しにくく、調べにくい。一本道で足りる場面のほうが多い
手綱上限・利用者の権限・人の確認・記録・資料の命令に従わない

他の章とのつながりでいうと、この章は第9章(質問を直す)の「分解」「振り分け」を LLM に任せた形で、第12章(評価)では途中の動きまで測る必要があり、第13章(運用とセキュリティ)の権限と命令の問題が、より重くなります。

ここまでで、RAG の部品と、いまの形が出そろいました。次の第12章では、それらが本当にうまく動いているのかを測る方法を見ていきます。

  • RAG のすべて 11 ― エージェント型 RAG
  • 14 / 14
  • まとめ:探し方そのものを LLM に任せる
  • 何が違うか
  • 何を・どこで・何回探すかを LLM が決める
  • 仕組み
  • 考える → 探す → 読む → 足りる? の繰り返し
  • 確かめる
  • 拾った資料を判定し、だめなら探し直す
  • 調べ物エージェント
  • 数十回探して、出典つきの報告書を書く
  • MCP
  • 探す道具を共通の口で差し込む
  • 使いどころ
  • 多段の質問・複数の資料庫。手綱を付けて
  • 強いが、遅く高く読みにくい。一本道で作り、必要な質問にだけ使う。

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