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ネットワークのしくみ ― 場所を知らない相手に、なぜ届くのか / 全8章

ネットワークのしくみ 1:全体像 ― 場所を知らなくても届く理由

発行
アニメモ公式
版
第1版
改訂
コマ
全13

あなたの PC は、相手のサーバーがどこにあるのかを知りません。それでもデータが届くのは、途中のルーターが「この宛先なら次はどこへ渡すか」だけを知っていて、バケツリレーのように隣へ渡していくからです。郵便との比較、IP アドレスの「まとまり」、2種類の宛先(IP と MAC)まで、シリーズ全体の見取り図を示します。

場所も知らない相手に、なぜ届くのか

ブラウザで Web サイトを開くと、一瞬で画面が出てきます。その Web サイトのサーバーは、東京にあるかもしれませんし、アメリカにあるかもしれません。あなたの PC は、相手がどこにあるのかを知りません。どの道を通ればたどり着けるのかも知りません。

それなのに、データはまっすぐ相手に届き、返事もまっすぐ戻ってきます。いったいどうなっているのでしょうか。

このシリーズでは、この疑問を解くために、ネットワークの仕組みを土台から順に見ていきます。スイッチ、ルーター、MAC アドレス、IP アドレス、層(レイヤー)といった言葉が出てきますが、すべてこの1つの疑問に答えるための部品です。

最初の作品では、細かい話に入る前に、答えの骨組みを先に見せます。後の作品は、この骨組みの各部分を詳しく見ていくものです。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 場所も知らない相手に、なぜ届くのか
  • あなた
  • ?
  • 相手
  • 小包
  • あなたの PC は、相手のサーバーがどこにあるのか知らない。それでも届く。

間にあるのは、ルーターがつながった網

あなたの PC と相手のサーバーのあいだには、何があるのでしょうか。

インターネットは、1本の太いケーブルではありません。家のネットワーク、会社のネットワーク、プロバイダのネットワーク、データセンターのネットワーク……といった無数の小さなネットワークが、ルーターという機械でつながれた網です。

図の楕円の1つ1つがルーターです。ルーターは、複数のネットワークの境目に立って、データを別のネットワークへ渡す役目をしています。

インターネット(internet)という名前自体が「ネットワーク(net)のあいだ(inter)」という意味です。ネットワークをつないだネットワーク、それがインターネットです。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 間にあるのは、ルーターがつながった網
  • C
  • A
  • H
  • F
  • あなた
  • K
  • 小包
  • D
  • I
  • 相手
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • インターネットは、無数の小さなネットワークをルーターがつないだもの。

全体の地図を持っている機械は、どこにもない

ここで大事な事実があります。この網の全体の地図を持っている機械は、どこにもありません。

インターネットにつながる機械は何十億台もあり、ネットワークの数も数十万あります。しかも、毎秒どこかで新しい機械がつながり、どこかのケーブルが切れ、どこかの経路が変わっています。これを1か所で全部把握し、「この PC からあのサーバーへはこの道」と決めてくれる中央の管理者は存在しません。

では、誰も全体を知らないのに、どうやって正しい道を通るのでしょうか。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 全体の地図を持っている機械は、どこにもない
  • C
  • A
  • H
  • F
  • あなた
  • K
  • 小包
  • D
  • I
  • 相手
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • A も D も K も、網の全体は知らない
  • 網は巨大で、毎秒どこかが変わっている。全部を知るのは不可能。

各ルーターが知っているのは「次にどこへ渡すか」だけ

答えの核心はこれです。

各ルーターは、全体の道筋を知りません。知っているのは、「この宛先なら、自分の隣のうち誰に渡せば近づくか」だけです。

図のルーター A は、データ(小包)を受け取ると、宛先を見て、自分の道しるべ(表)を確かめます。そこには「相手の方面なら D へ渡せ」と書いてあります。A は D に渡します。A がやるのはそこまでです。D の先がどうなっているかは、A は知りませんし、気にもしません。

この道しるべの表をルーティングテーブルと呼びます。6本目で詳しく見ます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 各ルーターが知っているのは「次にどこへ渡すか」だけ
  • 小包
  • C
  • A
  • H
  • 相手の方面 → D へ
  • F
  • あなた
  • K
  • D
  • I
  • 相手
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • 宛先を見て、自分の隣の誰に渡せば近づくか。それだけを知っている。

受け取ったルーターも、同じことを繰り返す

小包を受け取った D も、同じことをします。宛先を見て、自分の表を確かめます。D の表には「相手の方面なら F へ」と書いてあります。D は F に渡します。

ここで大事なのは、D は A から何の指示も受けていないことです。A は「D の次は F に渡してね」とは言っていません。D は自分の表だけを見て、自分で次を決めています。

この「1区間ずつ、受け取った機械が自分で次を決める」やり方を、ホップバイホップと呼びます。1区間を1ホップと数えます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 受け取ったルーターも、同じことを繰り返す
  • C
  • A
  • H
  • 相手の方面 → D へ
  • F
  • あなた
  • 小包
  • K
  • D
  • I
  • 相手
  • 相手の方面 → F へ
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • D は「相手の方面なら F へ」。自分の隣のことしか考えない。

バケツリレーのように、隣へ隣へ渡っていく

これを繰り返すと、小包は A → D → F → I → K と進み、最後に相手に着きます。図の赤い線がその道です。

どのルーターも全経路は知りません。それでも、それぞれが「近づく方向」へ正しく1歩進めているので、全体としては相手にたどり着きます。バケツリレーの一人一人が、火事の場所を知らなくても、「右の人へ渡す」だけで水が届くのと同じです。

これが、冒頭の疑問「場所も知らない相手に、なぜ届くのか」への答えの骨組みです。

ただし、これだけではまだ疑問が残ります。「ルーターの表に書く『相手の方面』とは何か」「隣に渡すとは、具体的に何をしているのか」「表は誰が書いているのか」。このシリーズの残りで、1つずつ答えていきます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • バケツリレーのように、隣へ隣へ渡っていく
  • C
  • A
  • H
  • → D
  • F
  • あなた
  • → I
  • K
  • D
  • → 相手
  • I
  • 相手
  • → F
  • → K
  • 小包
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • 誰も全経路を知らないのに、一歩ずつ確実に近づき、最後に相手へ着く。

郵便も同じやり方で届いている

このやり方は、実は郵便と同じです。

大阪から東京の渋谷の家へ手紙を出すとします。大阪の郵便局は、渋谷のその家がどこにあるかを知りません。知っている必要もありません。住所の「東京都」だけを見て、「東京行き」の袋に入れます。

東京の局は「渋谷区」を見て渋谷の局へ回し、渋谷の局は「〇丁目」を見て担当の配達員に回し、配達員が最後に番地を見て家に届けます。

どの局も、住所の一部を見て「次の局」を決めているだけです。全国のすべての家の場所を知っている局はありません。それでも手紙は届きます。

インターネットのルーターも、これと同じことをしています。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 郵便も同じやり方で届いている
  • 大阪の局
  • 東京の局
  • 渋谷の局
  • 配達員
  • 「東京都」だけ見る
  • 「渋谷区」だけ見る
  • 「〇丁目」だけ見る
  • 家の番地を見る
  • どの局も、住所の一部を見て「次の局」を決めるだけ
  • 差出人の町の郵便局は、相手の家を知らない。「東京行きの袋」に入れるだけ。

IPアドレスも、住所のように「まとまり」で書かれている

郵便のやり方が成り立つのは、住所が「都道府県 → 市区町村 → 丁目 → 番地」というまとまり(階層)で書かれているからです。

IP アドレスも同じように、まとまりで書かれています。203.0.113.10 なら、前半の 203.0.113 が「どのネットワークか」(町名にあたる)、後半の .10 が「そのネットワークの中のどの機械か」(番地にあたる)を表します。

これのおかげで、遠くのルーターは、個々の機械を覚えなくて済みます。「203.0.113 で始まる宛先は、右の方面」と1行覚えておけば、そのネットワークの中にある何百台の機械にも届けられます。

前半と後半の区切りがどこにあるのか、同じネットワークかどうかをどう判定するのかは、4本目で詳しく見ます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • IPアドレスも、住所のように「まとまり」で書かれている
  • 203.0.113
  • .10
  • どのネットワークか(町名)
  • その中のどの機械か(番地)
  • ルーターは「203.0.113 の方面は右」と1行覚えるだけで、 その中の何百台にも届けられる
  • 203.0.113.10 の前半(203.0.113)で方面が決まる。個々の機械は覚えなくていい。

では、道しるべは誰が書いているのか

ここまでで、「各ルーターの表に従って隣へ渡せば届く」ことが分かりました。では、その表(道しるべ)は誰が書いているのでしょうか。

小さな家のネットワークなら、人が手で書くこともできます。でも、インターネットの規模では不可能です。しかも、どこかのケーブルが切れたら、すぐに別の道へ書き換えなければなりません。

そこで、ルーター同士が隣と話し合って、自動で表を書き換えています。「あのネットワークへは、うち経由で行けるよ」「その道は今切れたよ」といった情報を、隣のルーターと交換し続けているのです。この話し合いの決まりをルーティングプロトコルと呼びます。

会社の中で使われる OSPF、インターネット全体をつなぐ BGP などがあります。7本目で詳しく見ます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • では、道しるべは誰が書いているのか
  • C
  • A
  • H
  • F
  • あなた
  • K
  • D
  • I
  • 相手
  • 相手の方面 → F へ
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • 「相手の方面ならうち経由で近いよ」
  • ルーター同士が隣と話し合って、自動で書き換えている(7本目)。

届け方は2種類:同じネットワーク内か、外か

小包を届けるとき、機械はまず「相手は同じネットワークの中か、外か」を考えます。

同じネットワークの中なら、ルーターは要りません。同じ家の中で家族に物を渡すように、直接渡します。このとき仲介するのがスイッチです(3本目)。

外のネットワークなら、自分では届けられません。そのネットワークの出口にいるルーター(デフォルトゲートウェイ)に渡して、あとは任せます。そこから先が、ここまで見てきたバケツリレーです(4〜6本目)。

「同じネットワークか」を判定するのに使うのが、前のページで見た IP アドレスの前半(ネットワークの部分)です。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 届け方は2種類:同じネットワーク内か、外か
  • 同じネットワークの中
  • 外のネットワーク
  • 直接渡す。スイッチが仲介(3本目)
  • 出口のルーターへ渡す(4〜6本目)
  • 「相手は同じネットワークか?」の判定に使うのが、IPアドレスの前半
  • 同じ中なら直接渡す(スイッチ)。外なら出口のルーターに頼む。

宛先は2つ書かれている:最終の宛先と、次の区間の宛先

小包には、宛先が2種類書かれています。ここがネットワークでいちばん混乱しやすいところなので、先に骨組みだけ示しておきます。

宛先何を表すか旅の途中で
IP アドレス最終の宛先(相手のサーバー)最初から最後まで変わらない
MAC アドレス次に受け取る機械(隣のルーターなど)隣へ渡すたびに書き換わる

郵便でたとえると、IP アドレスは封筒に書いた宛名で、MAC アドレスは局から局へ運ぶときに付ける伝票です。宛名は最後まで同じですが、伝票は「大阪局 → 東京局」「東京局 → 渋谷局」と区間ごとに新しく付け替えます。

なぜ2種類も要るのか、どうやって付け替えるのかは、3本目と5本目で詳しく見ます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
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  • 宛先は2つ書かれている:最終の宛先と、次の区間の宛先
  • IPアドレス
  • MACアドレス
  • 最終の宛先(相手のサーバー)
  • 次に受け取る機械(隣)
  • 旅の最初から最後まで同じ
  • 隣へ渡すたびに書き換わる
  • 手紙の宛名(最終)と、配達員に渡す伝票(次の局)の関係(5本目)
  • IPアドレスは最後まで変わらない。MACアドレスは区間ごとに付け替わる。

このシリーズの道のり

全8本の並びは次のとおりです。

番号話題答える疑問
1全体像(この作品)なぜ場所を知らなくても届くのか
2層データはどんな形で運ばれるのか
3MAC アドレスとスイッチ同じネットワークの中では、どう届けるのか
4IP アドレスと区切り同じネットワークかどうかを、どう判定するのか
5ARP隣の MAC アドレスをどう知り、どう付け替えるのか
6ルーター道しるべの表には何が書いてあり、どう使うのか
7経路の決め方表は誰がどうやって書いているのか
8旅の全体家の PC から Web サーバーまで、実際に何が起きるのか

どの作品も単独で読めるように書いていますが、順に読むと、1つの疑問が少しずつ解けていくように並べています。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
  • 12 / 13
  • このシリーズの道のり
  • 1 全体像
  • 2 層
  • 3 MAC とスイッチ
  • 4 IP と区切り
  • この作品
  • 封筒の入れ子
  • 同じネットワークの中
  • 同じか、外か
  • 5 ARP
  • 6 ルーター
  • 7 経路の決め方
  • 8 旅の全体
  • MAC が付け替わる
  • 道しるべの表
  • OSPF・BGP
  • 家からサーバーまで
  • 各作品は単独でも読める。順に読むと、1つの疑問が少しずつ解ける。

まとめ:誰も全体を知らないから、うまくいく

この作品で見た骨組みをまとめます。

事実意味
インターネットはネットワークの網ルーターが境目に立って、ネットワーク同士をつなぐ
全体の地図を持つ機械は無い中央で道を決める管理者はいない
各ルーターは「次」だけ知っている宛先を見て、隣の誰に渡すかを自分で決める
バケツリレーで届く1歩ずつ近づき、最後に相手に着く(ホップバイホップ)
アドレスはまとまりで書かれる遠くのルーターは「方面」だけ覚えればよい
表はルーター同士が話し合って書くルーティングプロトコル

逆説的ですが、誰も全体を知らなくていいからこそ、インターネットはここまで大きくなれました。中央の地図が必要な仕組みだったら、網が大きくなるにつれて、地図の管理が追いつかなくなっていたはずです。

次の作品では、データが実際にどんな形で運ばれているのか、層(レイヤー) の考え方を見ていきます。

  • ネットワークのしくみ 1 / 8 ― 全体像:場所を知らなくても届く理由
  • 13 / 13
  • まとめ:誰も全体を知らないから、うまくいく
  • C
  • A
  • H
  • F
  • あなた
  • K
  • D
  • I
  • 相手
  • 小包
  • B
  • G
  • L
  • E
  • J
  • 全体を知らなくていい = 網が大きくなっても壊れない
  • 各自が「次」だけ知っていれば届く。だから網がどれだけ大きくなっても回る。

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